home
4/5

常に七割で挑むことが継続の鍵

渡邉さんは、日々研究者として新しい顕微鏡の技術研究を行うだけではなく、一つのラボをどう運営するか研究者はどう仕事に取り組むべきかという経営者視点でマネジメントにも取り組まれています。渡邉さんは、研究者は締切に追われてくれないと嘆きます。

「僕らは研究者であって、論文という形がプロダクトなので、このプロダクトをいつどう売り出すかが重要になってくる。ですから、どこの学会までにこういうデータを人前に出すという目標の立て方をしています。遅れたらそれでプランは終了。5年10年かけて行うプロジェクトの中で、本当に結果を出そうと思うなら時間遅れは絶対に許されないこと。時間をかければいつかできるものかもしれないけれど、それではアウトプットする時期がずれてしまいます。これは戦略上痛い。プロジェクトには永続的に続くのではなく終わりがあるという意識を持たなくては。締め切りに遅れたら業績はゼロになるのです」

今、渡邉さんが関心を持っているのは情報の空間転送です。

「顕微鏡は光を使う機械。使い方次第ですばらしいものができるはずです。最近、情報を変革してテレポーテーションできるという技術が開発されましたが、いかに光の中に情報を埋め込むか、いかにそれを取り出すか、翻訳するか、これらをもう少し理論立てて考えられたらおもしろいと思っています。

もう一つ生物学的なことでは、生命現象を作り出す『個』と『集合』の関連性を解明すること。私たちの行動に例えて話すと、赤信号の横断歩道に一人でいる時と集団でいる時では横断歩道を渡るかどうかという意思決定が異なることはありませんか。一人なら自分で決めますが、集団でいると周りの行動に影響されて決めてしまうことはないでしょうか。このように、『個』が『個』として存在する時の意思決定と、『集合の一部』としての意思決定は、大きく異なるのです。ただ、「集合」は「個」の単純な足し合わせにもなりません。このようなことが、様々な層の生命現象でも起きているのです。僕は、『個』と『集合』を実際に計測し定義できないかと考えています」

なんでもあまりこだわらない方がおもしろい、とおっしゃる渡邉さん。

「研究をするのに重要なのは知識でも技術でもなく人。多少経験値が低くても、お互いを尊重できて人として会話ができる人であればいいと思っています。相手の話が聞けるなら分野が違っても話を聞けばいいのですから、とにかく話し合いができることが大事ですね。やっぱり人ですよ」

様々なことがあっただろうに飄々と笑って話す渡邉さんの座右の銘は「いつでも7割」。100%まじめにのめり込まないのを信条としているのだとか。

「人間は一生懸命やっているようで実は3割ぐらいしかやっていないと思っています。10割でやってしまうと潰れてしまうし、どんなに好きなことでも10割やりきってしまうと嫌になってしまうでしょう?やりきらなければ次にもう一回やりたくなる。だから、飽きずにいつまでも取り組めるためにも10割やりきらないのが僕の美学なのです」