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ものごとの本質を見極めることで発想は生まれる

今は次の細胞分析が頭の中にあり、思考は第二世代の細胞分析へと移られている升島さん。新たな問題を解決する方法を特許にまとめ中です。

「人がやっていることを追うのではなく、誰もできなかったことをするから僕の人生をかける意義がある。人が『こんなことできるのか』と言ってくれるのが快感でたまらないしうれしいし、もっといいものにしなきゃと思う。これが研究者の醍醐味だと思います」

人を喜ばせることを喜びとする思いは生物学だけに留まらず、2010年からは「歩行者も運転者も怪我させない車を作りたい」と車のボディをエアバッグにした全く新しいソフト衝撃吸収自動車ボディ「iSAVE」の開発者という顔も持っています。

「チャレンジしていると何か道が見えてくるはずだし、なければ作ればいい。物を作るというのは原理と本質がわかっていないとできません。私はいつも学生たちに、『本質を見抜け』と言ってきました。知識はどうでもいい、ものごとの本質を勉強しろと。要は何だということを一言で言えるのが知識です。例えば、木の原理を言うなら、根っこの土から養分を吸い上げて上で太陽光と合わせて何かいろいろなものができるきっちりした構造があるものを木という。この原理を知っていれば人工で木を作れるはずです。そんなしなやかな発想をしていないと新しい発想は生まれません。新しい車を発想するのも同じです。」

彼の中では、細胞も車もテーマが違うだけで、新しい装置を作って新しい可能性を広げているという意味では全く同じ。「細胞の分子分析をする」というテーマを持つ片方で、「歩行者も運転者も怪我させない車を作る」というテーマを掲げ、週末開発に取り組まれています。「iSAVE」は、最近、国産メーカーからも部品の協力が得られ、価格を下げることができたとか。

「先日、NHKの解説委員をされている方に、『先生、わくわくしながら喋っているでしょ。そういう人最近見なくなったな。いい人生でしょ』と言われましてね(笑)。実際は辛抱しているからしんどいんですよ」と、いろいろなご苦労もあっただろうに朗らかに笑い飛ばす升島さん。広島大学を退任され、これからはQBiCでの専任研究と「iSAVE」の発展がますます楽しみです。