home
4/5

劇的な変化は日々の積み重ねの中に潜む

研究活動はなかなか思ったようにはいかないのが実情です。でも、思っていなかったことが得られたりどう解釈していいのかよくわからなかったりというようなことの中に、実は大きなヒントが隠れているケースがあると川原さんは話してくれました。

「いろいろなことにトライする中で、『こうじゃないか?』という段階を迎え、わからなかったことについて最初に意味付けができた時は非常にエキサイティングな気持ちになります。私の場合、心臓の発生を制御する分子メカニズムの一端を最初に見つけた時は非常に興奮しました。心臓は、最初に体幹の両側にあった心臓前駆細胞が真ん中に寄ってきて一ヶ所に繋がり、少し左側にずれてそこで心房や心室に発生してきます。私達は、心臓前駆細胞の移動異常により心臓が両側で二つになる変異体を見つけました。その変異体の原因遺伝子が、これまで機能が不明であった膜タンパク質であることを発見したのです。その原因遺伝子の機能を調べてみると、脂質メディエーターの輸送体として機能しているという意外な結果が得られました。脂質メディエーターの細胞外への分泌機構は、長い間ブラックボックスの状況でしたので、解明できたのは非常にうれしかったですね」

そうした喜びを得た経験から、ラボのキャッチフレーズに「サイエンスを楽しむ」を掲げ、「わからないことを知りたいという思いを満たすため楽しんでやろう」という気持ちで日々研究に取り組まれています。

「座右の銘は、『好機は備えある心に宿る』。今の分野に取り組むようになって、特にこの言葉の意味を感じます。毎日思ったようにいかないことがほとんどですが、いろいろなことを試行錯誤して取り組むその過程が重要だと思っています。おもしろいもので、研究には劇的に進むステップがあります。それを掴めるかはいろいろなことを自分なりに考えてやっていったかどうかにかかっています。スマートな人だけが好機を掴めるのではなく、頭が良ければあまりやらないようなことをいろいろ実際にやって失敗を経験しておくことが活きることもある。知らないからこそやってみたことが蓄積され、その経験がある場面で繋がることがあるのです」 夢は、生命現象を司る合目的で美しい動作原理を明らかにすること。研究を進めていて何かが分かった時、「とても理にかなっているな、美しいシステムだな」というものを目にすることがあると教えてくれました。

「それは、長い間に無駄な部分が削られて残っているシステムなのだと思います。ぜひ、自分で生命現象を明らかにして、そうした場面を何度も経験できたらうれしいです」