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可視および第2近赤外領域に蛍光を発するプローブの開発とがん細胞の非侵襲イメージング

2015年5月1日
GFP-QD プローブ

近赤外波長領域 (900 - 1500nm)は“第2の生体の光学窓”とよばれる。この波長領域では、自家蛍光や組織による吸収、散乱が、これまで使われてきた近赤外波長領域(700-900 nm)より、さらに少なく、生体深部の観察にも利用可能だからだ。これまでに、この領域に蛍光を発するPbS, PbSe, Ag2Sなどの量子ドットは輝度が高く退色も少ないので非侵襲で行う生体深部のイメージングでの有用性が示されてきた。

しかし、波長が長いため分解能が通常の蛍光プローブほどは高くなく、細胞内の局在などを明らかにすることは難しい。また、検出に特別な装置が必要であることや、プローブの調整に多段階の反応が必要であることから、生物学者にとって必ずしも利用しやすい手法になっていない。一方で、EGFPなどの蛍光タンパクを用いた可視光領域の蛍光イメージングは幅広く利用され、高分解能かつ高感度な計測装置が広く導入されているが、個体・生体深部のイメージングには対応していない。双方の長所を組み合わせ、生体深部における“組織レベル”の分子動態と細胞内局在のような“細胞レベル”の情報をつなぐことが出来れば、幅広い階層における分子動態、分子メカニズムを理解するために有用な情報を与えることが期待される。

QBiCナノバイオプローブ研究チームの佐々木章客員研究員(本務:国立研究開発法人産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究員)らは第2近赤外領域に蛍光を発する量子ドットにEGFPとプロテインG(免疫グロプリンのFc領域に結合性を有する分子)を結合させ、緑色蛍光と近赤外蛍光(1150 nm)の両方を発し、さらに抗体結合能をもつプローブを開発した。乳がん細胞を皮下に移植したマウスに、乳がん細胞で過剰発現しているHER2受容体に対する抗体と本プローブとをあわせて投与し、近赤外蛍光による全身イメージングを行なった。その結果、腫瘍への抗体の蓄積を非侵襲的に検出することに成功した。さらに、切除した腫瘍を共焦点蛍光顕微鏡で観察することによって、がん細胞表面への抗体の結合もEGFPの蛍光として確認できた。

本プローブのタンパク質部分は通常の遺伝子組み換え技術によって調整されたものであり、分子生物学者が目的に応じて、蛍光の色を変えるなど、容易に改変することができる。さらに、化学合成に要する装置や知識をもたない生物学者も利用できるよう、水溶液中で材料を混合するだけで自己組織的に量子ドットプローブが形成される、1ステップ・1ポット合成法を確立した。これらの結果は Nanoscale に発表され、3月28日号の表紙を飾った。


  1. Sasaki A, Tsukasaki Y, Komatsuzaki A, Sakata T, Yasuda H, and Jin T. (2015) Recombinant protein (EGFP-Protein G)-coated PbS quantum dots for in vitro and in vivo dual fluorescence (visible and second-NIR) imaging of breast tumors.: Nanoscale, 7, 5115 doi: 10.1039/c4nr06480aopen access link