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プレスリリース

細胞のストレス状態をタンパク質構造で診断するNMR解析

細胞の健全性がタンパク質構造に与える影響を評価

2017年10月26日

細胞内は、タンパク質、DNA、脂質、糖質などの生体分子が高密度(200-400g/L程度)に詰め込まれた「分子混雑環境」です。そのため、多くの生化学研究で行われている、均一かつ希薄な溶液中で実験したものとは、これら生体分子本来の物理・化学的性質や生物学的機能が異なっていると考えられています。したがって、タンパク質など生体分子の機能発現メカニズムの理解を深めるためには、細胞内における挙動を直接観察することが求められています。

そのための有効な研究手法の一つとして「in-cell NMR法」が挙げられますが、この方法を用いた研究の多くは、注目するタンパク質の挙動の解明のみに焦点が当てられており、細胞の健全性などとの関連性についての理解が不十分でした。

そこで、QBiC生体分子構造動態研究チーム(木川隆則チームリーダー)の猪股晃介研究員らの共同研究チームは「in-cell NMR実験用培地供給システム」を改良し、このシステムを用いて健全な状態に維持した細胞と、システムを用いず高度にストレスのかかる環境にさらした細胞とで、細胞内で活動する酵素タンパク質アデニル酸キナーゼ1の構造状態を比較しました。

その結果、健全な状態を維持した細胞内では、この酵素タンパク質が正しく機能する折り畳み構造を持つ一方、高度にストレスのかかる環境にさらした細胞内では、本来形成するはずの折り畳み構造が解けてその機能が失われていることが分かりました。

本研究で得られた知見や実験手法は、高精度な薬剤設計に向けた創薬研究基盤としての活用や、細胞の健全性の違いをタンパク質の構造状態によって判別する新しい医療診断法への応用につながるものと期待できます。


  1. K. Inomata, H. Kamoshida, M. Ikari, Y. Ito and T. Kigawa, "Impact of cellular health conditions on the protein folding state in mammalian cells", Chemical Communications, 53, p11245-8 (2017) doi: 10.1039/c7cc06004a