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一個にこだわらずグローバルな視野を

2011年にお子さんが誕生し、谷口さんは帰国を決意。「今サイエンスをするために一番いい環境に行こう」と、いくつかの選択肢の中からQBiCを選びました。

「一番の理由は自分のラボを持てるポジションだったこと。日本でラボを持てるチャンスはなかなかないので、ありがたくうれしいお話でした」

5年という任期制に多少の不安はありましたが、結果を出せば次の道が開けるだろうし、背水の陣を敷いて攻めの姿勢を貫こうという思いもあっての選択でした。

谷口さんのチームは、技術を新しく作って広く応用していくために各分野をカバーできる人材が集結。彼自身34歳と若手ですが、メンバーはさらに年下ばかりと若さあふれるラボでリーダー職も勉強しながらアメリカ式にチームで研究に打ち込む日々です。

「実験が止まったり解決できなかったりすると僕自身の責任だと思い、理由を一緒に考えてアイデアを出します。ラボで怒ったことはありません。皆遅くまで残ってがんばっているので応援したくなるのです。一緒に働く人に求めることは自分で吸収していこうという気持ち。僕の研究室は多彩な分野の研究をするので、無限に力を発揮してもらえる場だと思います」

今、谷口さんが行っていることは、一日でも早い病気の予測を行うための基礎的な生命科学の研究です。

「病気が悪化した後にいろいろな解析を行うのではなく、僕は病気の始まりを見つけるための技術を作りたい。一個の細胞に注目し、完全に定量化するような解析を迅速に行ってやれば、100万個の細胞の中にある一個だけ異常なものを見つけることができる。結果、病気の本当の発祥のメカニズムを検出することができるのです」

まずは基礎レベルの簡単なモデル生物を用いて異常細胞が出てくるメカニズムを解いていくことが目標。ヒト細胞だと培養に時間がかかり数週間から数か月かかりますが、谷口さんらは大腸菌や酵母を使っているので一日レベルでどんどん解析ができており、モデル生物を用いた解析を行うための最新技術とベストな装置を作ってはアプローチしていくという挑戦の日々を過ごされています。

「今のところ酵母を使うとアプローチしやすいので一個の例として老化を研究していきたい。一個一個年老いていく細胞を一細胞レベルでちゃんと見て、一番クリティカルに老化を決定する因子を見つけたいと思っています」

次の挑戦は、ハイスループット技術と一分子蛍光顕微鏡の技術を組み合わせてゲノム中の全タンパク質を解析すること。

「僕らは一遺伝子ではなく全部の遺伝子を一挙に調べるハイスループット技術を作ろうとしています。例えば、いろいろな遺伝子を別々に染めた細胞をたくさん用意し網羅的に計る。そうすれば、それぞれの遺伝子の振る舞いが定量的に比較できるようになり、従来の研究では分からなかった遺伝子経路の解析も可能になっていくはずです。その時、範囲を一細胞レベルで行えば病気の初期過程も見つけることができ、病気の高度な予測が可能になってくるのです。分子のレベルの研究から細胞レベルの研究に進むに連れ、医療に役立つ研究の重要性を理解できるようになり、この道がますますおもしろいと思うようになりました。これからも分子のレベルからきっちり理解すると言う自分の強みを生かしつつ、複雑な生命の仕組みのより深い理解に繋げていきたいです」