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根拠のない信念でも諦めずに貫けば花開く

生命がどういうものかわかりたいという岡田さん。例えば、目を閉じて川のほとりに立ち、水に手を入れると上流と下流がどの方向かわかりますが、自分のいる位置は川の上流側か下流側かは答えられないはず。細胞は身体の左右のどちら側にあるかによって違った性質を持つ様に変化しますが、細胞はどうやって自分の位置を判断しているのでしょう。単にローカルな流れだけの話だけではなくて体全体のグローバルな状況の中、自分がどこにいるかを理解しないと左になるのか右になるのかというクエスチョンは解けません。

また、キネシンの本来の役割の解明も現在の課題です。細胞の中で荷物を背負って運ぶ宅急便と同じような物流の仕事を担っているのがキネシン。好き勝手に道路を走る訳ではなく、目的に向かって、最適な経路を走ります。しかし、一個の分子モーターが大きな細胞の中でどこへ行けばいいのかをどうやって判断しているのかが全くわかっていないのだとか。細胞内のカーナビはどうなっているのか、最先端のイメージング技術で細胞内を直接観察しながら、岡田さんは日々研究されています。

大きな成果を遂げた岡田さんですが、そうした結果を導き出せたのは良くも悪くも信念があったからと言います。

「今改めて話すとどれもうまくいったみたいに聞こえますが、実際は失敗の連続。キネシンが一分子で動くことを証明するまでに何年もかかったので、廣川先生に『ええかげんにせえ。別のものをしたらどうや』と言われたほど。何の証拠もなく、世界の誰もそんなこと言っていない中やっていました。でも、僕には『絶対にこれは動く』という根拠のない自信があった。それぐらいの信念がないと、世界中の人が仰天するような本当に新しいことはできないと思います。また、知識はある意味もろ刃の剣で、賢すぎるのも考えもの。賢い人ほど失敗したインフォメーションもいっぱい知っています。実は、原始結節について1980年代に発表された論文に、『線毛を観察したが動いていなかった』という記述があるのです。しかし、僕たちはそれを知らなかったからきっと動いているに違いないと思って実験していた。そういう意味で、研究者には強い精神力が必要だと思います」

岡田さんは、若い人たちに「教科書をちゃんと読みなさい」と日々伝えています。ちゃんと読むとは教科書に書いてある記述を鵜呑みにするのではなく、その根拠を探るということ。教科書を疑うとは、これもかなり強い気持ちがないとできないことです。

「結構教科書はいい加減で、辿っていくと根拠が怪しい説やそのうち消えてなくなる説がたくさんある。だから、教科書に書いてあることを丸暗記するのではなく、記述で引っかかるところはきっちりと調べる。そうすれば、意外に世の人たちの盲点になっていることに出会うのです」

彼の口癖は「見たんかい」。これはこうだと書かれていることや話すことすべてに「見たんかい」と突っ込みます。

「僕の今までの仕事も基本的にその思いからきています。これからも、『見たんかい』を合言葉に、新たな発見を目指したいと思います」