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国立研究開発法人理化学研究所 生命システム研究センター 先端バイオイメージング研究チーム

研究内容

はじめに:私たちの目指すところ

生命の最小単位が、蛋白質であるとします。蛋白質個々が、それぞれ相互作用し、複雑なネットワークを構成して、集団を形成し、ある機能を担います。その集団が、また、それぞれ相互作用を繰り返し、細胞として機能しています。そして、細胞が集合し組織を、組織が集合し個体を、個体が集合し群を・・・、というように、「個」と「集合」は、極小から極大までフラクタルに成立します。私たちは、生命現象を作り出す、この『「個」と「集合」』の関連性を解明すべく研究を進めています。

「個」と「集合」の関係をイメージするために、私たちの意思決定を考えてみましょう。あなたはひとり横断歩道の手前に居ます。今、信号は赤です。車が来る気配はありません。あなたは、どのように考えますか?ルールだから青信号を待ちますか?それとも自己の危険判断を信じて渡りますか?私たちは、自分の中で、答えを出します。では、周囲に多数の人がいるとします。誰かが一人、赤信号を渡ってしまいました。さて、あなたはどうしますか?多くの場合において、横断歩道に居るほぼ全員が赤信号を考えることなく渡ってしまいます。あなたの意思決定が、他の個々により左右されているのです。「個」が「個」として存在する時の意思決定と、「集合の一部」としての意思決定は、大きく異なるのです。 「集合」は「個」の単純な足し合わせとはなりません。これは、赤信号の例を考えても明らかです。このようなことが、様々な層の生命現象で起きているのです。例えば、蛋白質「個」は、水のブラウン運動を駆動力とし、非常にあいまいに働きます。しかしながら、この曖昧な素子で構成されるシステムは、非常に安定で、かつ、状況に柔軟に働くことができます。従来は、現象を簡素化した数理モデルを用いて、生命における「個と集合」の在り方が議論されてきました。私たちは、「個」と「集合」を実際に計測し、実験的に、「個と集合」の全貌を明らかにしたいと考えています。


この大きな目標を達成するために、私たちの研究室では、自分達で先端の計測技術を開発し、自分達で生命現象を測り、自分達で解析しています。少しずつですが、以下に、私たちの研究プロジェクトを記しておきます。興味のある方は、是非、目を通してみてください。

「個」と「集合」の状態を観察・計測する光学イメージング技術の開発

蛋白質、生細胞、組織、個体など、生命システムを構成する様々なスケール階層で、物理量・化学量を計測するため、新規光学顕微鏡技術の開発に取り組んでいます。顕微鏡を用いれば、たとえば細胞内の蛋白質の挙動と細胞全体の振る舞いを同時に計測できます。「個」と「集合」の関連性を調べる上で、顕微鏡で「観る」ことは最も直截的なアプローチであり、私たちはその開発を重要な課題と位置付けています。とくに光学顕微鏡は、生物を生きた状態で観察でき、且つ、種々の分光計測法と組み合わせることで様々な物理量・化学量を顕微計測できる可能性を持っています。観察対象のスケールや、観たい現象によって、必要となる顕微鏡は当然異なります。現在、以下のような顕微鏡を、目的に応じてデザインから構築まで自前で行なっています。

  • 細胞内の微細構造や分布を観察するための超解像技術
  • 脳組織など広い領域を一度に観察するための三次元顕微鏡
  • 細胞内の物質組成の計測に振動分光(ラマン、赤外等)顕微鏡
  • 単一モーター分子の挙動の観察や操作を行うナノメトリーシステム
  • 非標識で細胞内分子構造を観る非線形光学顕微鏡
顕微鏡グループは、物理学や分光学出身の研究員で構成されています。生物学の常識にとらわれず、自由な発想で研究提案を行っています。研究室の他のグループの生命科学者たちと日常的に議論を行い、その中でニーズ・シーズを互いに理解し合いながら開発を進めることで、生命科学研究で「即戦力」となるツールを生み出していきたいと考えています。

    
     瞳関数操作による蛍光顕微鏡の高分解能化                 顕微鏡光学系
  [Watanabe, et al. PLoS ONE 7, e44028 (2012).]

アミノ酸相互作用ネットワークとフォールディングと蛋白質機能の三者関係を解明

蛋白質は、アミノ酸『個』が数珠状につながっている『集合』です。もちろん、数珠のままでは、様々な機能を実現できません。蛋白質では、折り紙が、一枚の紙を折りたたんで形作られるように、数珠の中のアミノ酸が、それぞれで相互作用することで、三次元構造が作られます。これをフォールディングと言います。アミノ酸相互作用ネットワークとフォールディングと蛋白質機能の三者関係は、古くから研究されているのですが、複雑な蛋白質は、たった1残基のアミノ酸変異によって蛋白質の機能が損なわれることが多く、また、酵素などの複雑な機能を計測することが難しく、単純な機能の蛋白質でしか実験が行われてきませんでした。私たちは、蛍光蛋白質をモデル蛋白質として、上記の問題に挑戦しています。蛍光蛋白質は、「機能」が「光る」ことであり、機能を容易に計測できます。また、蛍光蛋白質に様々な変異を入れ、光の色を変える研究が盛んに行われており、構造が非常に安定しています。私たちは蛍光蛋白質に、ごく小さな変異を加えることで構造を変化させ、機能にどのような影響が出ているかを調べています。「構造」と「機能」の関係を調べる過程で、力感受性蛍光蛋白質、圧力感受性蛍光蛋白質の開発に成功しています。構造から予測した位置に変異を加えることで、機能を持たせることに成功した例です。
さらに、X線結晶構造解析やシミュレーションの研究室と協力し、「構造」と「機能」のさらなる理解に迫っています。


細胞内の『微小空間における状態』と、細胞の『分化状態』の関係

細胞の内部構造は、数十ナノメートル〜数ミクロン程度の小さな構造体(マイクロドメイン)により構築されています。このマイクロドメインの内部では、生化学実験のような試験管内とは異なる状態です。例えば、細胞の内部の蛋白質濃度は、約350mg/mlと高濃度であり、細胞の中はほとんど蛋白質により埋め尽くされています。そのため、蛋白質は自由に拡散することが出来ず、局所に環境の異なる状態が作られています。この局所状態は、細胞全体の状態を決める要因のひとつである可能性があります。私たちは、細胞分化という、表現型の分かり易い実験題材を用いて、微小空間における状態遷移と細胞全体の状態遷移との関連性を明らかにしたいと考えています。 上記の目的達成のためには、新しい計測技術の開発が必要です。私たちは、蛍光蛋白質改変技術を用いて、細胞内の局所的な蛋白質濃度を検出する技術の開発に成功しました。また、生きた細胞の核内の構造を推測するために、光褪色後蛍光回復法という顕微鏡法を応用しています。数理モデルやシミュレーション技術なども利用し、この問題に対して、多方面からの理解を目指しています。


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 国立研究開発法人理化学研究所
 生命システム研究センター
 先端バイオイメージング研究チーム

 チームリーダー:渡邉 朋信

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