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長身の平野美奈子は、白衣を着ていなければ、スポーツ選手に見えるかも知れない。研究者といえば、白衣を着ているイメージがあるが、平野のようにいつも白衣を着ている研究者はそれほどいない。しかしQBiCの研究員として働く平野にとって、白衣にはある決意がこめられている。
名古屋大学の生物学科を卒業した後、数年間、平野は学問の世界を離れていた。神戸に移り、バイオ関係の会社や大学でテクニシャンとして働いていた。その頃のことを、平野は「会社ではうまく出来たらそれでおしまいで、どうしてうまく行ったのか、その原理が分からなくてもすんでしまう。それが何となくしっくり来なかった」と振り返る。「人に言われてやるより、自分で自由にやりたかった」という平野は大学院に戻って学ぶことを決意した。そして、大阪大学の柳田敏雄教授の研究室の扉をたたいた。柳田の仕事に興味を持つ一方、どちらかというと小さなグループで働きたかったという平野は井出徹の研究グループに加わった。その後、井出が静岡県にある光産業創成大学院大学の教授として異動した。平野は博士号を取得し、生命システム研究センターの研究員として大阪に残りながら、井出のプロジェクトを続けている。平野は「一人でプロジェクトを動かすことで責任が特に増えたとは思わないし、一方自由度は格段に増えたと思う。」と語る。
平野は細胞の外から細胞の中へ物質を通す働きをするイオンチャネルを研究している。イオンチャネルは細胞膜を貫通する巨大なタンパク質で、その一部分が構造変化を起こし、それによって、イオンを通す穴(チャネル)が開いたり閉じたりすることが知られている。これまでイオンチャネル分子の集団を対象に構造と機能の関係が研究されてきた。しかし、それでは一つ一つのチャネルが開いているのか閉じているのかがはっきりしないので、分子構造と機能の関係はあいまいだ。平野は全反射蛍光顕微鏡を使った一分子イメージングと電気生理学とを組み合わせて、より詳細な構造活性相関の解明に挑む。
平野はこれまでの研究でpHや膜電位など細胞内外の性質変化がイオンチャネル分子の開閉にどう影響するのを明らかにしてきた。これまでは細菌由来のイオンチャネルを対象に研究してきたが、この研究手法をヒトのイオンチャネルにも応用しようとしている。これによって、薬物の細胞内への取り込みや、それによる薬効の改善などの研究に応用できると考えている。