研究概要

われわれは,「MEMS/NEMS (Micro/Nano Electro Mechanical System) 技術」を駆使して,「生命科学研究を如何に高効率化するか」というテーマに挑戦する研究ユニットです。
MEMS/NEMS技術とは,マイクロメートル/ナノメートルの構造物を設計・製作し,それらを電気的(ときには光学的)な方法で「センサ」や「アクチュエータ」として機能させる一連の技術体系です。われわれはこのMEMS/NEMS技術を,生きた細胞や生体分子の計測・操作・合成技術へと展開しようと考えています。

例えば,ある1個の遺伝子の機能を解明するために必要となる遺伝子改変マウスを1系統作製するに,現時点では,遺伝子の設計・合成から細胞への導入そして個体作製・評価までの全過程に数ヶ月・数人・数百万円の時間・人手・費用を必要としますが,これらの作業を代替するMEMS/NEMSデバイスを製作し,作業を高速化・自動化・微量化することで,時間・人手・費用を数桁縮小することが可能であると考えています。
このように,もとより膨大な多様性を孕む生命現象を相手とするためしばしば網羅的なアプローチが必要となる生命科学研究の場で,実際に何が研究の進展のボトルネックとなっているかを見極め,工学の視点から新たな方法論を提供することが,当ユニットに課せられたミッションであると考えています。

もう少し詳しくは,以下のようなテーマで技術開発を行っています。


1

生命科学実験の集積化・次世代化

分子・細胞・組織などの生体サンプルおよびその培養環境を効率よく操作する技術を開発しています。
例えば,細胞を1個1個分離し,並べて,培養し,摂動を与え,応答を計測し,計測結果を分析し,分析結果に応じて特定の細胞を選択的に回収する,という一連の操作を1枚のマイクロチップ上で自動的に行うシステムを構築することで,多数の細胞の中に埋もれたレアであるが大変有用な細胞を効率的に集めて利用することが可能となります。

2

マイクロ/ナノスペースを利用した生体分子の高効率合成装置の開発

細胞を構成する分子(核酸やタンパク質,脂質など)の合成は,従来,有機合成化学や生化学の手法でセンチ/ミリメートルスケールの「フラスコ」(反応場)の中で行われてきました。
ここにMEMS/NEMS技術を導入することで,「フラスコ」をマイクロ/ナノメートルスケールまで微小化し,高度に並列化させることで,多種多様な生体分子をこれまでとは桁違いに効率良く合成できるようになることが期待されます。

当ユニットでは,細胞デザインコア内での研究室間の綿密な連携のもと,ターゲット分子を絞り込み,マイクロ/ナノスペースの特性を生かした高効率合成装置を開発します。

3

マイクロ/ナノスペースを「場」とした「人工細胞」の創生

人工的に合成した生体分子をマイクロ/ナノスペース内で相互作用させながら細胞の機能が再現される条件を探る,というアプローチをとることで,細胞機能を「分子システム」として理解することができると考えられます。
当ユニットでは,生命システム研究センター内での研究室間の綿密な連携のもと,ターゲットとする細胞機能とその関連分子を絞り込み,MEMS/NEMS技術に基づく生体分子群の合成・操作・観察系を開発します。

本テーマはいまだ萌芽的な段階ですが,細胞機能の理解に留まらず,様々な人工デバイスへの応用の可能性も秘めていると考えています。

4

生体機能を組み込んだ新型マイクロ/ナノデバイスの開発

分子・細胞・組織などの生体サンプルを「センサ」や「アクチュエータ」として組み込んだ,新しい原理のマイクロ/ナノデバイスを開発します。
これら生体由来の素材を人間が利用する「素子」として見ると,調達源の問題,個体差の問題,寿命の問題など様々な難点がありますが,同時に,従来の素子では実現の難しい高度な機能を有しており,近い未来これらの素材を人間が自由自在にデザインし作製する技術が確立されれば,産業・医学等からの生体機能組み込み技術へのニーズは急激に拡大することが予測されます。
これまでにも,培養液中のグルコースをエネルギー源とする心筋細胞駆動型マイクロポンプ(Lab on a Chip 6(3), 362-368 (2006))や,平滑筋駆動型マイクロアクチュエータ(Lab on a Chip, 8(1), 58-61 (2008))などのマイクロデバイスを実現しています。

今後はこのような技術を他の分子・細胞・組織にも応用し,より高機能かつ洗練されたデバイスの開発を試みます。