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研究の概要 Overview

本研究グループは、細胞の情報処理機能や運動機能が生体分子の反応ネットワークのダイナミクスによって自発的に生み出される仕組み(構築原理)と、その情報処理システムが確率的なゆらぎの影響を強く受けながらもノイズに対して頑強に機能したり、或いは、ノイズを利用しながら機能する仕組み(演算原理)に興味を持っています。

こうした生体分子による確率的な演算の典型例として、我々はこれまで細胞性粘菌Dictyostelium discoideumにおける濃度勾配センシングと走性運動の情報処理に焦点をあて研究を進めてきています。本研究グループでは、1分子イメージングなどを含む最先端の計測技術と理論・高性能計算機を用いた数理モデリング、および、細胞機能の再構成技術を組み合わせることにより、細胞の情報処理を担うシステムの構築原理と演算原理の理解を目指した新しい研究手法の開発を行ないます。

予測に基づくネットワーク動態の制御

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細胞 —自律的に組織化・階層化されたシステム

個々の生体分子は熱ゆらぎの影響を強く受け、その分子運動や分子反応は確率的な性質を持つことになります。細胞がシグナルを伝達するときには、こうした分子反応の確率性に起因して「ノイズ」が生じることになり、細胞応答のゆらぎや、一見ランダムな自発運動を生じます。しかし、それでも細胞は変動する環境に対して巧みに適応し、集団を形成して個体を維持できます。私たちはこうしたシステムの特徴を“構造化された確率性(organized randomness)”と呼んでいます。

私たちは細胞を「生物的機能が自律的に組織化・階層化されたシステム」ととらえ、各階層で見られるダイナミクスが、他の階層の機能や構造を形成する仕組みを調べています。

細胞性粘菌では生体分子から個体に至るまでの様々な階層で「ゆらぎ」と「自律的な組織化」がみられます。

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細胞

定量計測 —独自の方法論と計測技術で細胞のダイナミクスを測る

ゆらぎと生体機能の関係を明らかにするにはゆらぎを定量する必要があります。細胞内の個々の生体分子のダイナミクスを定量(位置検出(拡散係数)、相互作用検出(結合解離定数)、構造変化検出(分子間距離)等)するために我々は、細胞内1分子蛍光イメージング等の観測手法の開発や共焦点イメージング等の様々な観測データを画像解析し、情報を抽出する技術を開発しています。

対物レンズ型TIRFM (total internal reflection fluorescence microscopy)用いる事で生細胞内1分子蛍光イメージングは、実現されます。エバネッセント照明による局所的な励起は、細胞へのダメージの低減にもつながります。

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定量計測

理論・数理モデル —ダイナミクスの観察から理解へ

定量計測のデータを解析して見えてくる分子反応や反応ネットワークのダイナミクスを数理モデルで記述し再現することで、細胞の情報処理システムや運動機能がその構成要素から自発的に生み出される仕組みを明らかにします。また数理モデルの解析から、「ゆらぎ・ノイズ」が細胞の機能発現にどのような効果・役割をもつのかということを調べています。

こうした一連の研究を通して、細胞という「ゆらぎを内包したシステム」を、単純化・統一化した原理で説明し理解することを目指しています。

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理論・数理モデル